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《ナルマヨ日和》 お題 「昼寝」

■前置き■→ 真宵ちゃん視点で、「真宵ちゃん→なるほどくん」で
表面的にはお互いにあんまり恋愛を意識してない二人、のはずです。
2と3の間くらいか、3のあたりの時間軸かと思われます。



 今日はなんだか、まだ冬だっていうのに、やけに暖かく春のような陽気。

 まるで昨日の勝訴を祝ってるみたいだ、なんて朝には浮かれていたけれど、こう暖かいと、なんというかこう…。その上さっきお昼ごはんを食べたばかりだと……もう、どうにも、危険だよね。
 一人がけのソファに座って、目の前の机に書類を広げて。まがりなりにもお仕事をしているのにも関わらず、睡魔って強敵はものすごい勢いであたしを誘惑してくる。もはや、今にも机の向こうにある広い方のソファに寝転がりたいくらいに睡魔の囁きにうとうとしはじめたところに、なるほどくんに名前を呼ばれた。
 注意されちゃう、と焦ってとびあがるように顔を上げてみると……どうやら。
 先にヤツに陥落したのは、なるほどくんの方だったみたいだ。

「ごめん真宵ちゃん、……1時間だけ……」

 そう言って、あたしの向こう側のソファになるほどくんが横になったときから、ちょうど1時間が過ぎた。あたしは作業の手を止めて、その場に座ったまま声をかけてみる。

「なるほどくーん、1時間たったよ! そろそろ起きなよー」

「……ううーん……んん……あともう少し……」

 あきらかにまだまだ無意識の状態での生返事に、こりゃダメだ、と小さく溜め息をついた。

(ま、しかたないか。なるほどくん、最近ほとんど寝てなかったみたいだもんね)

 そう思って、あたしは改めて目の前の書類ともう一度向き合う。

 最初は昼寝を公言した所長に、当然のように「ずるーい」と抗議をした。そうしたら「マヨイちゃんも休憩しちゃっていいよ」とまで言われてもいた。
 それなのに、目の前で健やかに昼寝をはじめたなるほどくんを見る頃には、もったいないくらいに睡魔は退散していて……それもあって、あたしは柄にもないくらいに真面目に仕事を続けていた。

 昨日、無事勝訴しての事後処理。簡単な書類をまとめるだけの作業だけど、それなりの時間はかかる。今回の仕事は、相変わらず調査も法廷もギリギリだった。だけどちょうど数日まとめて倉院に顔を出さないといけない日と重なって、裁判前にはほとんど手伝えなかった。だから尚更、今の目の前の書類だけでも全部片付けてやるんだと思っていた。

 あたしにできることは、けして多くはないけど、なるほどくんの負担を少しでも減らしてあげたいと思う。
 今までたくさん助けてくれた、そしていつも助けてくれている彼へ、それが恩返しになればいいんだけど。


 しばらくして、あたしにできる作業は全部終わってしまった。なるほどくんは相変わらずやすらかな寝息をたてている。
 じゃあ休憩にしてトノサマンDVDでも見ちゃおうかな、なんて考える。
 でもそんなことしたら、起こしちゃうかな? まあ時間的には別に問題ないだろうけど。
 一応もう一度、起こしてみようか。そう思ってあたしは再びなるほどくんに呼びかける。

「なるほどくーん」

 返事がない。

「なるほどくんってば!」

 声のボリュームをあげてみると、あまりにも疲れていたのか今までほどんど微動だにしなかったなるほどくんが、ソファの上で器用に寝返りをうった。あたしがいるのとは逆方向に。そして寝言をつぶやく。

「…んー……うるさいなぁ……むにゃむにゃ」

 失礼な。

 こうなったら、全然起きる気配のないなるほどくんに、イタズラでもしてやろうかと立ち上がって机の向こう側を目指す。
 マジックどこにあったかな、いやサインペンにしといてあげるか、そんなことを思いつつ、ひとまず彼の寝るソファの前にしゃがみこんでみた。

 とがった頭が視界の大部分を占領している。
 ホント、どうしてこうなるんだろ…、なんて考えていると、突然それが動き出す。なるほどくんがまた寝返りをうった、……今度はさっきと逆方向に。

 突然、目の前すぐに現れたなるほどくんの顔に、しばらく静かにひそむむつもりだったのに「ひゃ!」と小さく叫んでしまうほど驚いた。心臓がばくばくしている。
 でも、そんなあたしにかまうことなく、目の前の顔は変わらずにすやすやと寝息をたてている。
 心臓の動悸になれてきたと思ったら、今度は妙に息苦しい気がしてきた。気づくと生唾をごくりと飲んでる。
 あたし、どうしちゃったんだろう。

(落ち着け落ち着け、…そう、落ち着くのよ あたし!)

 と、なんとなく昔おねえちゃんがうっかりもらした独り言を真似て叫んでみる。連呼しているうちに、なんとなく落ち着いてきた気がした。さすがお姉ちゃん。ありがとうお姉ちゃん。

 ……そしてふと、昔のことを思い出す。昔だけじゃない。最近のことも。なるほどくんと過ごした時間を、いろいろ考えてみる。本当に、いろいろあったなぁ。

“まあ、その方が……真宵さまの王子様なのですね!”

 その流れで、昔のはみちゃんの問題発言まで思い出す。あれは、はじめてなるほどくんのことを説明したときだ。びっくりしすぎて開いた口がなかなかふさがらなかったけど、どんなに否定しても、否定すればするほど確信された。
 その様子に、あたしはよっぽど、なるほどくんの話を、大事そうな顔でしたんだろうな、とちょっぴり自覚してしまった。
 あの頃は、立派な霊媒師としてお仕事できるようになるまでは会えないって思ってた。だから余計に、本当は早く、また会いたいと思ってた。そんな気持ちでいたのだから、「そういうんじゃないよ」と何度言ったところで、はみちゃんに信じてもらえなくてもしかたない。

(……好き、なのかな。やっぱり)

 目の前の顔の持ち主を、じっくり眺めながらそう思う。

 特徴的な面白いまゆげはもちろん、とがった髪の生え際部分も面白い。
 でも目鼻立ちはなんだかんだいって整ってるよね。
 閉じている目から、丸っこいいつもの瞳を思い描く。
 目元の肌が少し荒れてる。やっぱり睡眠不足みたいだ。
 呼吸にあわせてときどきぴくっとなる鼻も面白い。
 半開きの口がなんだか可愛い。

 じっくり観察するうちに、胸の奥からいろいろとこみあげてきて、口から何か出そうになる。落ち着け落ち着け。

 少し視線をそらして見る。
 体もけっこう、がっしりしてるんだよね。
 なんて思ったら、ますます口があわあわしてしまう。何考えてるんだろう、あたし。

 ふと、左手だけソファからおろされているのが目に入る。
 あたしとは違う、大きくて節くれだった手。

(触れたいな)

 そう思って、でもためらって、あたしは顔を落として。……でもまた顔を上げて、そっと手を伸ばす。

 触れた指は思いの他ひんやりしていて、ちょっと驚く。冷え性なのかななるほどくん、なんて思ったら、余計に愛しさが増して。ごく自然な気持ちで、軽く触れていた指を滑らせて、指先何本かを握ってみた。すると。

「ん……」

 なるほどくんから声が聞こえて、あたしは飛び上がりそうになる。思わず手を離して、それでも声だけは必死に抑えていたら、なるほどくんはまたもそもそと寝返りを打った。今度はあたしの方ではなく、普通に天井の方を向いていた。また、寝息が聞こえてくる。

 あたしは目を閉じて大きくため息をついた。安心と、そして緊張からの緩みで、体から力が抜けていく。

(助かった……。)

 そう思っていたのに、目を開けて再び広がった視界に入り込んだなるほどくんの左手を見た途端、心が揺れる。寝返りを打っても変わったのは体の向きだけで、その手はあいかわらず下に投げ出されていた。あたしは思わずそれをじっと見つめ続けてしまう。

 ダメだダメだ。
 そう思っているのに、なんだか、止まらなかった。

 もう一度手を伸ばして、今度はまるで普通に、軽く手を繋ぐように指先全体を握ってみる。心なしか、さっきよりも暖かい気がした。あたしの胸が熱いだけかもしれないけど。

 ものすごく素直に、ずっとこうしていたいと思った。
 だからなるほどくんが、もうしばらく起きなければいいのに、と思う。
 まだ冬なのに、春のようにうららかな午後のひととき。
 あたしがこっそりこんな風にしてることに気づかれないまま、彼の穏やかな昼寝が、やすらかな寝息がもっと続けばいいのに、と願う。
 だけど。

 だけど同時に、心のどこかであたしは。

(気付いちゃえばいいのに)

 そう祈るように、握った手の力を、ほんの少しだけ強めた。


<end>


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■言い訳コメント■

たまには真宵ちゃん視点で書いてみよう! …でした。

この話が、2と3の間だったら
なるほどくんは本気でずっと寝てそうですけど、
3の間とか3の後なら……
実が途中からタヌキ寝入りでした、でもいいと思います。

(そして数箇所誤字というか重複もあったので、後日ちょっと加筆修正しました…)

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