「……コネコちゃん、気持ちは嬉しいんだが……。
　可愛いハンカチでちょっと拭いたくらいじゃ、
　そう変わらねえだろうぜ。」

「そんなこといったって…！　だってまさか、
　こんなにセンパイが雨にうたれてただなんて…
　風邪ひいちゃったら、どうするんですか！」

「クッ……！　そこまでヤワに見えるかい？」

「事務所ナンバーワンのセンパイに傘持たせて送らせておいて、
　雨にうたせて風邪までひかせたなんて……
　そんなことになったら大変です！
　新人として申し訳がたちません！」

「（……どうやら、余計な気をつかわせちまったみてえだな。）
　カワイコちゃんの気遣いを無駄にするのも男じゃねえ…か。
　アンタのいうとおり、風邪ひかねえうちに戻るとするさ。
　……だからもう、そのハンカチをしまいなコネコちゃ…」

「ああ！　もう、肩どころか、こんなに下の方まで…！
　ずいぶん濡れちゃってるじゃないですか…」

「…………」

「……ううん、もうこのハンカチじゃもう水吸わないみたいです…
　すっかり濡れちゃって…
　もう、こう押してもこすってもどうにも……」

「……オレの話、聞いてるかい。コネコちゃん」

「そうだわ！　センパイ、私の家このすぐ近くなんです！
　だからその濡れた服、うちで乾かしていってください！」

「…………」

「……どうしました？　センパイ」

「………コネコちゃん、アンタ……。
　……さっきから、わかってて言ってんのか？」

「え。……わかってますよ？　だってほら、
　濡れたままの服だと体冷えるじゃないですか。
　だから、うちで乾かしてあげるといいと思うんです。
　……乾燥機なんてありませんけど、
　アイロンでなんとかなると思うんですよ。」

「……わかってねえことだけは、よくわかったぜ。」

「え。（そ、そうかしら…？）
　……でも、ここまでしてもらったからには、
　何かお礼しないことには帰せませんよ！
　まあ、うちには今コーヒーはないですけど、お茶なら少しは…」

「……コネコちゃん、礼はいらねえ。」

「え、でも…」

「そのかわり、オレの頼みを聞いちゃくれねえか。」

「え、セ、センパイが…ナンバーワンのセンパイが、
　新人の私に……頼み、ですか…！？
　は、はい！　なんでもどうぞ！」

「…………言動には、気をつけてくれ」

「…………………。……ええと。
　……そんなに変なこと、言っちゃってるんですか？　私って…」

「……クッ！　そこまで自覚がねえと、気をつけようもねえか」

「……すみません…」

「しかたねえ。……じゃあ、とりあえず、
　もっと具体的なことを、２つだけお願いしちゃうぜ」

「は、はい！　それでお願いします！」

「……まず、他の男の傘には入るな。」

「……は？」

「もうひとつ、何かのお礼をするときには……
　いや、それ以外でもだ、
　簡単に、男を家にあげるな。」

「…………。……そんなことで、いいんですか？」

「あァ、重要なこと、だぜ。……弁護士として。」

「！　弁護士として……そうだったんですね！　わかりました！」

「クッ……！　そいつはよかった。
　（……まったく。予想以上に　ほっとけないコネコちゃん、だぜ…。）」